先輩に初めてを奪われる

2/2
前へ
/24ページ
次へ
「脅すみたいになって悪いな」  謝るならやらないでください……と言いたいけど何も言えず下を向いて黙っている。  近づいてきて、顔を上げられる。  うわ、殴られるのか!?  反射的に目を閉じる。  怖い怖い怖い……  唇に柔らかい何かが押し当てられ、鼻孔を甘い香りが擽る。  ん……?なに??  確かめようと目を開けると、目を閉じた先輩の顔がドアップで見えた。  こっ……これってキス!? 「!?!?」  ドンと彼を押して言葉にならない声を上げる。  突然の出来事に動悸がおさまらない。  ちょっと待ってよ   僕、僕……ファーストキスだったのに。  こんな男に奪われるなんてあんまりじゃないか。  僕が何をしたっていうんだ。 「なっなんで?!」 「目閉じてたからしてって事なのかなって」 「そんな訳ないだろ!?  何考えてるんですか!?  ファーストキスだったのに……」  思わず声に出ていた。  手の甲で唇を何度も拭う。  目に涙が滲んできた。 「そうなの?  マジで、俺が初めて!?」  聞かないでよ……  せめてもの抵抗できつく睨みつける。 「そうかー  あおの初めての人になっちゃったー  てことは童貞?」  そういうデリケートな事をズケズケと言うんじゃない。  どういう神経をしているんだ。  羞恥心で顔が赤くなってくる。 「かわいい、最高じゃん」  こっちは最低の気分だ。  またぐいっと顔を上げられる。  手で前髪を払われて、視線がぶつかる。  上を向いた拍子に涙が溢れた。 「かわいい顔  ほんと理想的なんだよな  なぁ、なんで隠してんの?  もったいない」  僕の涙を指で拭いながらじっと見つめてくる。  誰が答えるもんか。  だが視線を逸したいのに、なぜだか抗えない。 「まぁ、いいけど  そうだ、予習だと思えばいいんだよ  女の子にする前に俺で練習すれば、本番はうまくいくじゃん?」  練習って何?  何の話をしているんだ?  言葉にしようとするのだけど、うまく動かせない。 「練習って何の?」  カラカラの唇を何とか動かし声を発する。 「セックス♡」 「セセセ!?」  この人何を言ってるんだろう。  セ、セックスって言った??  混乱を極める僕の頭は処理が追い付かない。  この人と?僕が?? 「ハハ、そんな驚かなくても  最初に言ったけど、俺、あおに抱いてほしいんだよ」  男の僕が先輩を抱く??  は??  どういう意味? 「俺ね、かわいい男の子に抱かれるのが夢なんだ」  恥ずかしそうに笑っているのだが、ちっとも笑えない。  この人の思考回路についていけない僕はおかしいのだろうか。  何も言わず黙っていると、顔を覗き込まれた。  ダメだ、何とかして阻止しないと。 「ちょっと待ってください  童貞に先輩のお相手は荷が重すぎるというか……」 「安心しな、俺も挿れられんのは初めてだから」  どういう事!?  挿れられるって何??  大丈夫なの!?  訳が分からなくて頭が痛くなってきた。  なんとかして回避できないものか考えを巡らせる……。 「それならなおさら経験豊富な方のほうがいいのでは?  僕本当に何も分かりませんし」 「あぁ?俺はあおがいいって言ってんじゃん  前髪ちょん切るぞ」  前髪を切るジェスチャーをしながら低い声で凄まれた。 「ヒイ、それだけはご勘弁を……」  怖い!!  必死に前髪を抑える。  これがないと僕、登校できない。 「ないと困るだろ?  ちょーっと時間くれるだけでいいって  なっ?」  強烈な圧が僕に伸し掛かる。  もう逃げられる気がしなかった。   「……はい」  「やったあ、チンコゲット〜♪」  浮かれている。  意味不明な言葉を聞きながら僕は遠くを見つめた。  もうどうにでもなれ。  諦めに似た感情が湧き上がる。  涙を拭い、もう戻ってもいいか問いかけた。  最後にと言って前髪を上げられたかと思うと僕の顔をスマホに収めた。  一瞬の出来事で抵抗する暇もなく、馬鹿みたいに口をポカンと開けることしかできない。  スマホに写った僕を「うん、かわいい」と言いながらうっとりとした表情で見つめる先輩の姿に悪寒が走る。  満足したのか、じゃあまたと言って颯爽と消えた。  姿が見えなくなると、僕は立っていられなくなってその場にへたり込んだ。  人生最大の恐怖を味わった気がする。  これからどうなってしまうんだろう。  計り知れない恐怖に僕は押しつぶされそうになった。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加