はじまりの教室

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「日常泥棒を捕まえるのじゃ!」 「ちっ。警察か!」  ウーとパトカーのサイレンが鳴る、早朝。  髭の生えた男は急いで教室の一番後ろのロッカーに隠れた。 「どこに行った?」  警察官が足早に通り過ぎ、髭の生えた男はにやりと笑った。 **  天野柑奈(あまのかんな)は岐阜県多治見市の市立青空自然小学校に通う小学五年生。  星の入った丸襟の半袖のシャツと青色のスカートの制服を着て、山に囲まれた心地よい川の音が聞こえる街の一軒家から多治見大橋を渡り、多治見駅を通過して、二十分歩いて学校に通っている。  柑奈の父、天野拓也(あまのたくや)の職業は警察官で、御嶽山(おんたけさん)の見える三角屋根の小さな交番で働いている。  拓也は毎日、道案内をしたり、落とし物を探したり、交番を尋ねてきた人の悩みを丁寧に聞いてすぐに事件を解決している。 「天野さん、ありがとうね」 「いつもありがとう、天野さん」  街の人にお礼を言われる拓也はいつもにこやかに笑っている。『お父さんは街のみんなを守る大ヒーローだ』と、柑奈は思っている。  そんな柑奈の将来の夢は、拓也のような警察官になること。  警察官になるには国家試験という難しいテストに合格しなければならない。だから柑奈は拓也の警官服の色と同じ青と黄色の入ったシュシュをお守りとして髪につけて、日々、勉強や運動を頑張っている。
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