行方知らずの騒動

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行方知らずの騒動

 ある日、わしは社用車である場所へ向かっていた。その場所とは、直属の部下の宏治が1人暮らしをしている平屋建ての自宅である。 「もしかしたら、定刻に遅れてくるかも」  途中で会うかもしれないと追いかけるように捜しているが、宏治の姿はどこにも見えない。  わしは、本社工場の生産部門における宏治の仕事ぶりをよく知っている。それ故に、宏治の行方が分からないことに社内全体が心配している状況である。  今回の件は、いつもなら早めに会社にくる宏治が連絡もなしに来社していないことから始まったものである。無断欠勤をしたこともないだけに、宏治に何かあったのではと思うのも無理はない。  なにしろ、スマホも固定電話も音信不通の状態である。地元の警察署や隣の県にいる親族に連絡を取るなどしながら何とか見つけようと手を尽くしてきた。 「自転車が置いたままだし、中へ入ろうにも鍵が掛かっているし」  宏治は自動車を持っておらず、通勤に使用するのは専ら自転車である。しかし、今日は通勤用の自転車が置かれたままとなっている。 「まさか、自宅で倒れているのでは……」  不安に駆られる中、わしは背後から人間らしき影が現れたことに気づいた。背後から発するその声が耳に入ると……。 「宏治が見つかったのか!」 「ああ、見つかったよ」  宏治が無事に見つかったことに、社内もホッと胸をなでおろしていた。  今回の行方知らずの騒動の理由、それは宏治がスマホを自宅に置いたままで病院へ行ったという単純なことである。たとえ些細な理由であっても、自身のライフラインであるスマホを常に所持することを改めて思い知らされることとなった。
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