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新品のテレビの前で、ユイは息を吸いながら腕を掲げる。
息をゆっくりと吐きながら、腕を横からおろす。
「深めの呼吸、13の型。人体の調和!」
ラジオ体操の最終局面(深呼吸)のような動きをしながら、ユイが指を鳴らす。
すぐさま、買ったばかりのテレビに火が点いた。
テレビがやる気をだしたわけではない。本当に燃えているのだ。
表面だけが焼けているように見える。フランベってやつか?
火の勢いが衰えてきたころだ。
200万円のテレビが爆発し、跡形もなく消え去った。
フランベの最終形態って、こんな感じだったか?
シェフを呼びたくなる状況だ。
残ったのは、リモコンとローンだけ。
涙で明日が見えそうにない……。
「焼野原さん。これでアナタもテレビの電源が切れる能力が使えるようになったはず。でも気を付けて、有効射程は3センチなの」
そんな能力いらねぇ……。
「電源というか、テレビが事切れているけど?」
「ナチョナルの液晶テレビ限定なの……」
ゆらめく煙をかき分けて、ユイが顔を出す。
この子は人の話を聞かないタイプのようだ。
「さっきまで存在していた俺のテレビは、シ○ープ製だけど」
「え? ナチョナルのテレビぢゃないんですか?」
ナチョナルは、ハナソニックという社名に変わった。その事実を知ったユイは、鳩が豆鉄砲を5発くらったような顔をしている。
「ナチョナルぢゃないテレビは、ゴミです!」
小さな手を握りしめ、ユイが力強く言い放った。
テレビを製造している全メーカーに謝れ!
「ということは、ハナソニックのテレビもゴミ扱いになると思うんだが」
「妖術の有効射程は6センチ……」
図星だったらしい。ユイは超がつくほど涙目だ。
「長さ20センチのリモコンで、テレビ本体のスイッチを押したほうが早くないか?」
どこへ連れてく気だ?
いいから人の話を聞け!
顔を真っ赤にしたユイに手を引っ張られ、外に連れ出された。
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