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2−2
翌日。僕は十時より二十分くらい前に自分のクラスへ向かい、誰もいない教室にいた。涼むために、天井に付けられた扇風機のスイッチを入れると、扇風機はゆっくりと首を回すように回転し始めたが、放つ風はほとんど熱風でしかなかった。
少しして、鈴木さんが来た。彼女が小柄で、丸み帯びたショートヘアをしていて、いつもアクセサリーがたくさん付いたトートバッグを持っている。たまに中学生に見間違えるほど童顔だった。
「あれ、大島くんも文化祭の集まりに参加するの?」
「まあ、長浜さんに誘われたからね」
「へえ、そうなんだ。大島くんって何部だっけ?」
「僕はワンダーフォーゲル部だね。俗に言う山岳部ってやつ。まあ、今は行っていないけど」
「きついから?」
単刀直入に訊く鈴木さんは、地味な部活のわりに積極的な性格だった。
「いや、僕は山を登っている最中に怪我をしたんだ。その後遺症が今でも残っているから、もう山には登らないってだけ」
「でも、部活自体は辞めていない」
「まあ、辞めてほしくないって引き止められているからね」
「なんで?」
僕はその理由を知っているから、即答する。
「お金だよ。学校から、部員一人当たり一万円の手当てが出るんだ。ワンダーフォーゲル部からすれば、僕がいるだけで一万円が手に入る」
「逆を言えば、大島くんが抜けちゃうと一万がどこかへ飛んでいってしまう」
「そういうことだね」
「イヤらしい世界だね。私は嫌い、そういうの」
漫画研究会のわりに、彼女ははっきりと物申す。偏見まじりだが、僕は彼女の姿勢に感心した。
「そうだね。僕も嫌いだね」
「ちなみに、私は漫画研究会だよ」
彼女は間を開けずに自己紹介をした。
「今回はお化け屋敷のデザインとか、室内の構想を一緒に考えてほしいって頼まれたの。夏休みだから部活動もそこまで無いし、どうせ暇ならイベントに参加した方が楽しいかなって思って。そうだ、大島くんは漫画とか興味ないの?」
「漫画か。人並みには読むけど、それほどかな。そういえば、漫画研究会は実際に漫画を書くんだろう? 前にそんな話を聞いたことがあるよ」
「うん。実際に一からシナリオを考えて、漫画を書くこともあるよ。まあ、一番は好きなキャラクターのイラストを描くことかな。まずは絵の技術を上げたいから。みんなそうだよ。漫画も読むし、実際書く人もいるけど、みんな漫画の絵が好きだからここに属しているって感じ」
「つまり漫画研究会というよりも、イラストを描く部活なんだね」
「それがしたいからね。それに、ただ漫画を読んで消費するだけじゃ、青春じゃないでしょう?」
切れ味の良い言葉だった。僕は「それはそうだ」と言って、窓の外に視線を移した。野球部がグラウンドを走る。野球がしたいから。陸上部が足のストレッチをしている。走るために。彼らは生きる目的、つまりテーマを持っているから、青春を背景に落とし込める。僕にはそれがなかった。
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