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「直輝、どうだ調子は」
無理に笑顔を作りながら父親は息子のベッドの側まで歩み寄った。胸中を悟られないようにか、母親はその背後で顔を見られないように立っている。
「あ、パパ。ママ‥‥‥」
不安そうに両親を見上げる直輝に、二人の胸は痛んだ。直輝は過去に怪我も病気もしたことがなく、恐らく物心がついてからは病床はおろか病院に来たこともない。そんな幼い子供が急にこんなところに連れられて、胸中穏やかでいられるはずがない。
「あのな、直輝‥‥‥」
父親は直輝の目線に合わせるようにしゃがみ込むと、ベッドの傍らに手を置いて直輝の説得を始めた。優しい口調で穏やかに話したつもりではあった。実際父親は柔らかい表情を保ったまま、冷静に事の経緯を話したのだが、手術という一言が出ると、それは幼き子供に恐怖を憶えさせるには十分すぎるキーワードとなった。
「嫌だよ!手術なんてしたくない!」
急に泣き叫んでベッドの中に隠れてしまった直輝に、か細く保っていた父親の感情の琴線が切れてしまった。
「直輝!このままだとお前、死ぬんだぞ!それでもいいのか」
「あなた!」
思わず悲しみの感情が怒りへと転化してしまった父親の腕を、後ろから母親が押さえつけた。涙をこらえながら首を振る彼女を見て、父親は今一度深呼吸をして冷静さを取り戻そうとした。
三度目の深呼吸の息を吐いたタイミングで、直輝がゆっくりベッドから顔を覗かせ、涙を流したまま、弱弱しく父親を見つめた。
「僕‥‥‥死んじゃうの?」
二人の涙腺がはじけた。
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