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「わ、分かった。手術の日までにジロー選手にあ、逢わせてやる」
「ホント?やったあ!約束だよパパ」
脇で母親が夫を肘で突いた。
「じゃあ、俺はこれで帰るけど、また明日も来るからな」
「パパ、帰っちゃうの?」
寂しげな顔を浮かべる直輝に、再び父親の胸は痛んだ。言葉に詰まった父親の代わりに、それまで黙っていた母親が直輝の頭をそっと撫でた。
「パパはお仕事だから。ね、ママは残るから大丈夫よ」
直輝の付き添いとして母親が残ることは、病室に入る前に決めていた。二人とも手に職を持っているが、母親の方がいち早く職場に連絡を取り、一か月ほどの休暇の許可を取ったからだ。職場からは、丁度いいから有給消化しちゃいなさいと快く受け入れられていた。
父親は笑顔で一度手を振ると病室から出ていった。
「あ、私もちょっと売店で買い物してくるわね。入院の準備、準備‥‥‥と」
言い訳がましく言いながら、母親も彼の跡を追うように病室を出ていった。
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