1.母に究極の惨敗をする

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1.母に究極の惨敗をする

「お母さん、目的の店は新宿駅の東口だよ」  その日は、母と新宿を闊歩していた。新宿は、言わずと知れたターミナル駅であり、日本有数の乗降者数を誇る場所だ。  母とは、ランチをしにこの街に来ていた。並んで歩く妙齢の娘と初老の母。それはそれは、仲睦まじい母子(ははこ)に見えていた事だろう。 「よろしくお願いします~」  気だるそうな若者が、母に何かの小冊子を手渡した。 「お母さんそれ何? 漫画?」 「さぁ、何か分からないわねぇ。本みたいだけど。家に帰ったらよく見てみましょうね」  母に渡された小冊子の中身が気になるまま、ランチを終えて帰宅した私だったが、帰宅してその中身を見て驚愕する事になった。 『時給八千円! 熟女可! 本番無し!』  その小冊子の中身は、エロ本すらろくに(たしな)んだことの無い私には衝撃だった。そう、それは風俗求人誌だったのだ。 「あらやだぁ、お母さん、熟女専門の店で働こうかしら~」 「何をおっしゃるお母様」  私にとって衝撃だったのは、まんざらではない様子の母の態度と、この小冊子の内容だけではない。私は毎週のようにこの街に出入りしているが、未だかつてこの小冊子を貰った事が無い。という事だった。  還暦を迎えた母には手渡されて、アラサーの自分には手渡されない風俗求人誌。その事実に、私はとてつもない敗北感を覚えた。  風俗店で働くつもりは無かった。しかし、私はこんな事実を突きつけられた気分になったのだ。 『お前には需要が無いが、母には需要がある』  何故だ。何故母には需要があって、年若い私には需要が無いのか。普通に考えたら、私の方に需要があるのではないか?  ここで、母をじっと見つめてみた。  もう数十年化粧をしていないすっぴんの顔。たるんだ体型。服装も決しておしゃれではない。  ただ……一点において、私とは全く違う場所があった。  それは────胸、だった。
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