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第一章 消える
ボクは鳴(なる)、みょうじは歌(か)蛙土(あど)、日本橋(にほんばし)に住んでいる小学四年生さ。通う小学校(しょうがっこう)はふるぼけた校舎(こうしゃ)で、ボクのおばあちゃんも、その前のおばあちゃんも、もっとまえのおばあちゃんも通っていたほどふるい学校(がっこう)だけど、子どもが少ないから、ボクがそつぎょうするころには、となりの町の小学校といっしょになるそうだ。
だから校門(こうもん)のそばにあった《みどり先生》がはずされてしまった。
《みどり先生》というは、小学校ができたときの記念(きねん)碑(ひ)で、おとなよりも大きな、みどり色をした岩(いわ)のことなんだ。おばあちゃんによると、ず~と前から、だれともなく、そうよんでいたそうだ。
それには、ひょうめんにボクなんかじゃよめない、むずかしい字がほってあって、うわさだとなにか、その下にたいせつなものがあったらしく、岩(いわ)をうごかすのを大松(おおまつ)神社(じんじゃ)の宮司(ぐうじ)さんが、ものすごく反対(はんたい)したらしい。
だけど、けっきょくは裏門(うらもん)にうつされて、今はなんだかさびしそうに見える。
なぜ、うつされたかといえば、ふるぼけた学校の校舎(こうしゃ)をつぶしたあとで、温水(おんすい)プールができるらしい。
おとうさんは「大河原(おおかわら)先生(せんせい)のおかげで、しごとがいそがしくなるぞ」って、はりきっていた。
よく知らないけど、大河原先生は都議会(とぎかい)議員(ぎいん)のえらい先生で、校長(こうちょう)の梅田(うめだ)哲(てつ)宏(ひろ)先生とは幼(おさな)なじみだというからたいしたものさ。
おとうさんは、けんせつ会社(がいしゃ)のからのちゅうもんで、温水(おんすい)プールのロビーや更衣室(こういしつ)の内装(ないそう)工事(こうじ)を受け持つらしい。つまり中身をつくるだいくさんなんだよ。店は清洲(きよす)通(どお)りのすぐそこにある商店街(しょうてんがい)にあって、名まえは設楽(したら)工務店(こうむてん)と、言うんだ。
歌(か)蛙土(あど)工務店(こうむてん)でないのはおばあちゃんの実家(じっか)の家業(かぎょう)を、おとうさんがついでいるから、屋号(やごう)がそのままになっているんだよ。
おとうさんで四代目(よんだいめ)だけど、養子(ようし)じゃないから表札(ひょうさつ)も、ちゃんと歌(か)蛙土(あど)拓(ひらく)って書(か)いてある。拓(ひらく)はおとうさんの名まえさ。
うちのかぞくはおばあちゃん、おとうさん、おかあさん、そしてボクの四人さ。
おとうさんは背が高いけど、ボクはおかあさんとおなじで、クラスでも三番目にチビスケ。おかあさんゆずりの白いはだに、おとうさんゆずりのどんぐり眼(まなこ)で、いつも《どっちかといえば親から受けついだところが反対(はんたい)だったらよかったのに》と、思っている。
母さんはアーモンドの形のきれながの目だし、おとうさんは、色ぐろで、デブっとしてる。おまけにあたまがはげてきたんで、タコ入道(にゅうどう)みたいだ。かおだっておかあさんは細いけど、おとうさんとボクは丸がおだ。
ちなみボクはおかあさんと同じで、デブじゃない。
そこだけは気に入ってる。
でも、しょうらいはわかんない。やっぱりはげてデブになるのかな?
なかのよいともだちはボクのことを『ナル』と、よんでくれるけど、女子はちがう。「カラス、カラス」ってからかうんだ。
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