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『お菓子の家に住んでみたいね』
小さい頃、ふたりでお菓子の家を作る度に、わたしは、言っていた。
今、その夢が叶ったのだけれども。
「やっ…、いやぁっ」
「何が嫌なの?」
せせら笑う様な声が前髪に落ちて、頬へと滑り落ちる。
わたしは、体の中心に挿し込まれた指の淫靡な感触から逃がれようとした。
きつく目を瞑り、身を捩らせて、必死で閉ざして。
今、自分の身に起きていることを無かった事にしてしまいたかった。
腹部を横切る様に覆いかぶさる静かな白い肌。
日の光を浴びる事が極端に少なくて、繊細に思えた身体は、遥かに逞しかった。
甘い香りのする床に押さえつけられてしまう。
胸の先端が生温かい柔らかなものに包み込まれる。
ちゅっ、ちゅっという濡れた音に唇で吸われているのだと気付いた。
天井も壁も床もすべてが同じ甘い匂い。
毎年焼き続けて来た懐かしい香りが、恐怖に変わりつつあると感じて気が遠くなる。
恐る恐る目を開ければ、涙越しに、ずっといっしょに過ごしてきた大切な存在が滲む。
彼は視線に気づいたのか、胸元から顔を上げた。
こんな姿は、こんな表情は、知らない――――――
「もう逃がさないよ、姉さん《マルガレーテ》――――――」
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