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Mission157
アインダードたちが王都ソルドへ向かっている最中、ギルソンたちも動きを見せていた。
「アリス、ちょっといいかな?」
「何でしょうか、マイマスター」
ギルソンに話し掛けられて、アリスが手を止めてギルソンを見る。すると、ギルソンはにこりと微笑んでアリスを見ている。
「ソリエア王国の国境近くまで、鉄道を敷いてもらうことはできるかな」
「それは構いませんが? どうしてでしょうか」
ギルソンの提案を不思議に思うアリスである。
「うん、ソリエアは最近よく分からない動きをしている。だからといってこっちも黙って見ているわけにはいかない。アインダード兄様たちを信用していないわけじゃないけれど、どうも落ち着かないんだよね」
ギルソンの顔は笑顔のままだ。どことなくその笑顔に恐怖を感じるアリスである。
(うう、作中の悪役堕ちを感じさせる笑顔だわ……)
表情は崩さずとも、心の中で思ってしまうアリスである。そのくらい、その時のギルソンの顔にはドキッとしたものだった。
「畏まりました。ですが、敷設するとしても、国王陛下の許可は頂きませんとね」
「確かにそうだね。早速向かうとしようか」
そういうと、ギルソンはアリスと一緒に国王のところへと向かっていった。
これがまた、許可はあっさりと出てしまった。ただ、ソリエア王国に近付きすぎるなという条件は付けられてしまったので、国境近くの村くらいまでということになった。
ギルソンは学園があるので、アリス一人で対応することになる。とはいえ、今までも散々そうだったので、アリスは特に気にした様子はなかった。
「いいかい、アリス。異変があれば全部ボクに報告して下さいね」
「畏まりました。それでは早速行ってまいります」
ギルソンから命令を受け、アリスは一人、城から旅立っていった。
そうやってやって来たのは、ソリエア王国からの動きを報告されたトライ駅。……ではなくて、隣のフィア駅だった。
トライ駅から分岐させるとソリエア王国に動きを察知されてしまうので、それを避けるためにフィア駅を選んだのだ。ついでに言うと、ソリエア王国方面の街道はさらにもう一つ奥のフェンフ駅から出ているので、間を選んだというわけである。
「これはマスター様。本日はどうなされたのですか?」
アリスを出迎えるアンフィア。
「ええ、このフィア駅から鉄道を分岐させる工事をするためにやって来ました」
「何のためにでございますでしょうか」
アリスの話に慌てて顔を出すフィアーツ。急な話で驚いているようだった。
「マイマスターであるギルソン殿下のご命令です。それ以上はあなたたちとはいえ、答えられませんよ」
目を閉じて淡々と答えるアリスの姿に、アンフィアとフィアーツの二人は黙り込むしかなかった。
「さあ、あなたたちはいつも通りに業務に戻ってちょうだい。鉄道の運行には影響は出しませんのでね」
「畏まりました、マスター様」
両手を前に添えて頭を下げたアンフィアとフィアーツは、いつものように淡々と業務へと戻っていった。
話を終えたアリスは、ソリエア王国方面の地形を改めて確認する。
メインとなる街道と、ソリエア王国からの侵入者の通り道、そのどちらも避けるように鉄道建設を行わなければならないからだ。
本来街道沿いであれば、自国内の話なので無視はできないはずだ。だが、今回はソリエア王国の目や耳に入れるわけにはいかない。なので、やむなく街道を外すという判断となったのである。
「これは……、骨が折れますね」
アリスはおおよそのルートを決めると、鉄道の沿線から見えないように国境の方へと移動していく。そして、国境に最も近い村を訪れると、そこから鉄道の建設を始めることにしたのだった。
当然ながら村の住民たちは驚いていた。しかし、王命であると聞くとアリスの言うことにおとなしく従っていた。
「もちろん、ご協力いただく以上、この村もよくしてみせます。同じ王国の民なのですから、見捨てるわけには参りません」
「よろしくお願い致しますじゃ……」
アリスに対して、村長をはじめ、村人たちは深々と頭を下げていた。
それにしても、やって来た村を見て驚いたものだった。ギルソンが5歳の頃から国内の農業事情は改善してきたはずなのに、8年経った今も昔のままの姿の村があったとは、アリスにとってショック以外のなにものでもなかったのだ。
そうなれば、鉄道の開業でもって何としても変えていかねばならないと、アリスは強い決意を抱く。
決意をすれば、後のアリスの行動は早かった。
昼夜問わずに工事を続け、フィア駅にやって来てからたったの3日間で鉄道を完成させてしまったのだった。途中にはフェンフ駅から出ている街道からほど近い場所に駅をひとつ設けただけで、終点となる村まではほぼノンストップという形である。
「さすがはマスター様。いとも簡単に建設してしまうなんて……」
あっという間に完成してしまった鉄道の立体交差を見て、アンフィアとフィアーツの二人も呆然と眺めるばかりである。
はてさて、この鉄道の完成が、ソリエア王国との交渉でどのような影響を与えるのだろうか。それは誰にも分からなかった。
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