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「ふん、まぎらわしいんだよ」
どうやら老人は建物の管理人で、夏樹は訪問販売の営業だと間違われたらしい。
郵便受けの横には「許可なきチラシを入れる行為、勧誘等お断り」と達筆で書かれた張り紙が、大きく張り出されていた。
老人は管理人室へと入っていき、やれやれと窓口に座った。
「すみません、父がご迷惑を」
「はぁ、なんだっけ。別れた家族に会いにきたって? どちらのお宅?」
「三重野、です。三重野楓。何号室だっけ」
「二〇四号室って書いてあるな」
葉書を見ながら、夏樹が言った。
「え?」
名前と号室まで伝えたから、それで納得してくれるかなと思ったら、空気が変わった。
「ああ、それは……」
突然かしこまった管理人の態度に、ただわけがわからなくて首を傾げる。
なんだろう、この違和感。目の前に影が差したような気がして、視線が泳いだ。
そのとき、奥のエレベーターが開いて、住人が降りてきた。
そちらに気を取られ顔を向けると、視線はそのまま釘づけとなった。
相手もこちらに気づいて、ぴたりと足を止める。
「……っ」
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