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進路指導室は校舎の三階にあり、放課後の廊下に人通りはなかった。
廊下にパイプ椅子が二脚並べて置いてあり、面談の親子は指定の時間にそこで待っていればいいことになっている。
静まり返った廊下に、校庭で部活動に励む生徒たちのかけ声が届いていた。冬馬の隣に腰かけた夏樹も、その声を心地よく聴いているようだった。
何を話すでもなくそうしていると、冬馬は焦れたような落ち着かない気持ちになった。
――今日は来てくれて良かった。仕事を休んでくれてまで。
けれど他の生徒の大半は、母親を連れてくるのかな、なんて。
いやそんなことはないか。このご時世、母子家庭、父子家庭、そこに当てはまらない複雑な事情を抱えた家庭だって増えているもんな。
(……はぁ)
どうしてそんなことを考えてしまったんだろう。両親が揃っていないことを気にするような時期は、もうとっくに卒業したはずなのに。
頭の中の雑念をぐちゃぐちゃと掻き消そうとしたとき、カツカツと規則的に階段を上がってくる音がして、クラス担任の斉藤洋子が廊下に姿を見せた。
約束の時間の、きっかり一分前だった。
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