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「おい褒められてるじゃないか。先生、そんなに甘やかさないでください。調子に乗りますから」
褒めたのか? 今のは。冬馬にはよくわからなかった。
洋子は手元のファイルから視線を上げたが、表情がないから詰問されているようにしか思えない。
「……それで。藤川くんは、大学を出て具体的な目標などは」
冬馬は言い淀んだが、夏樹に促されて、正直に答えた。
「まだあんまり……大学に入ってから考えます」
「そうですか。絶対とは言えませんが、入った学部である程度、職業の選択肢が狭まってしまうことを念頭に置いておいてください」
「冬馬、おまえ文系だったのか。先生、私は理系だったんですがね」
夏樹は洋子に笑いかけた。職業病――というよりも、話題の主導権を握っていないと気が済まない性分らしい。
洋子は表情を崩さずに応じた。
「そうですか。お父様は何のご職業で?」
「化粧品メーカーです。先生、さっきから思ってたんですが、肌がすごくお綺麗ですよね。生まれはどちらのご出身ですか。あぁ、すみません。私、美容関係の仕事をしているもので……」
「……それで、こちらに大学のオープンキャンパス日程の一覧をまとめてありますので」
おい、スルーされてるぞ。
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