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その後も差し込まれる夏樹の世辞に、洋子は眉ひとつ動かさない。一方、夏樹もへこたれない。どちらもマイペースだ。
最後まで双方の個性を曲げぬまま、冬馬にとって居心地の悪い進路面談は、定刻になりお開きとなった。
*
「……すごいだろ、うちの担任」
面談が終わって夏樹と一緒に階段を下りていく途中、冬馬はうかがうように尋ねた。
「まぁ個性的だったな。でも頼りになりそうじゃないか。名刺交換もしてくれたし」
夏樹は気にしていないようだ。
まったく、女には甘いんだからな。
洋子は教師になるだけあって知識は豊富なはずだし、仕事はできる。妥協もしない。けれど保護者連中には好かれないだろう。
(PTAにも平気で物を言いそうだよな、あの先生)
親たちをお客様と崇め奉るくらいでなければ、態度が悪いとクレームを入れられる、そんな時代なのだ。
冬馬の将来の夢は定まってはいないが、これだけは断言できる。
教師にだけは、なるまいと。
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