1 ある日の災難

2/5
前へ
/104ページ
次へ
 静寂を破りたくて、独り言が漏れる。後味の悪さを引きずりつつも緊張を解こうとしたとき、「メッセージ、二件目です」という電子音声が流れて、次の再生が始まった。  またもや、無言。そして雑音。  おそらく、相手は外で電話をかけている。ざらざらとした風の音、何かが擦れる音。聞きたくもないのに、わずかな音の欠片を耳が拾おうとしてしまう。  三分ほど経っただろうか。それとも二分だったのか。  二件目の再生が終わって、三件目。まだ続くのか。  備えつけのテープは、どれくらいの容量だったろう。三十分? 六十分? もしかしたらテープの端まで繰り返し、吹き込まれているのだろうか――。  冬馬は愕然として電話の前から動けずにいたが、再生中の無言の音の流れの中、わずかに電話口の向こうにいる人物の息遣いを感じて、衝動的に停止ボタンを押した。  背筋をゾクリとした感覚が這い上がる。相手には聞こえていないはずなのに、今も盗聴されているような気がして、首筋の毛がチリチリと粟立った。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加