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小柄な女子生徒が、うつむきかげんで立っていた。小動物を思わせる小顔に、肩の下あたりで切りそろえた黒髪。冬馬が「ストーカー」と呼んでいる相手だ。
彼女は冬馬と同学年だが、クラスは異なる。名前も忘れたが、野球部に出ていた去年からちらほらと視界に入ってくるようになった。
好意を寄せられているのはわかっていたが、待ち伏せされたり、あとをつけられたりするのは気持ちがいいものではない。
足を怪我してナーバスになっていたときに、親切顔して近づいてきたことを思い出す。
そのときはレギュラーを取られてイライラして、誰かに八つ当たりしたい気分だった。
『絶対、大丈夫だから。怪我が治ったら、また活躍できる。私、野球をしている冬馬くんを見ているのが好きで……』
『野球をしてない俺は、価値がないってこと?』
そう切り返すと、彼女は慌てて否定していたが、その口元から野球以外の要素が出てくることはなかった。それはそうだ。たいしてこちらのことなんて、知るわけがないのだから。
どうしようもなく、嫌悪感が膨れ上がる。
焦った様子の彼女がこちらに触れてこようとしたので、反射的に手を振り払った。
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