1 ある日の災難

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 怒りに任せて「迷惑だから近寄るな!」と怒鳴りつけたら、彼女はようやく言葉を引っ込め、蒼白な顔をして逃げていったっけ。  それからしばらくの間は、ストーキングも鳴りを潜めていたのに――もう都合の悪いことは忘れて、こりずに舞い戻ってきたらしい。 「……何か用?」  心の底から不機嫌に、冬馬は言った。  彼女はおどおどしているくせに薄っぺらい愛想笑いを浮かべて、まるで自分たちは親しい仲であるかのような話し方をする。この笑顔がうさん臭いというか、心の中が読めなくて好きじゃない。 「今日はお弁当じゃないんだね。お昼がパンじゃ足りなくない?」  見てたのか。そういうところが気持ち悪いんだと内心毒づく。 「あのね、実は今日、調理実習があって、クッキー作ったから、良かったら」 「いらない」 「そっか、そうだよね……」  彼女は残念そうに、そして照れ隠しとばかりに笑った。なにがおかしいのか冬馬にはわからない。とにかくこれ以上は関わりたくないと、視線を逸らして背を向ける。 「あ、あのっ、藤川くん」  早口に呼び止めて、彼女は言った。 「手紙、読んでくれた……?」  怒らせてしまったみたいだから謝りたくて、と相手が言い終わる前に、冬馬の苛立ちが爆発した。
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