1 藤川家の事情

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1 藤川家の事情

 藤川(ふじかわ)冬馬(とうま)は実母の顔を知らない。  物心ついたときには父と二人暮らしで、ある日突然、義理の母親と妹ができた。  けれどその両親も、冬馬が小学四年生の頃に離婚した。取り柄は顔と体だけの父・夏樹(なつき)が、台所で料理をする義母・(かえで)に、しょうこりもなく、 「仲のいい友達(もちろん女)が店を開きたいって言うからさ。共同出資して助けてあげたいと思うんだけど」  などと言い出し、楓がついに愛想を尽かしたからだ。  離婚するにあたり、冬馬は楓の方についていきたいと泣いた。  けれど血の繋がりでいえば、義母とは他人であるわけだから、否応なく父の元に残ることになった。  楓も心残りを抱いている様子ではあったが、結果として冬馬は置いていかれたわけで、「自分は捨てられた」と当時の冬馬は嘆き、今後の人生を憂うこととなった。
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