1 藤川家の事情

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 夏樹は本当に顔だけは良くて、おじさんになっても女性にモテる。  高身長、引き締まった体格の良さに、均整のとれた顔立ち。  高収入というほどではないがそこそこ有名な化粧品メーカー勤務で、メンズ化粧品部門の営業部長だ。ゆえに身だしなみには気をつけているし、物腰柔らかくトークもうまい。  本人もそれを否定せず、来るもの拒まずだからたちが悪い。  浮気もどきが絶えず、すぐに開き直る。  離婚する前にも、冬馬は何度か夏樹と楓の夫婦喧嘩を目にしていたが、 「君とは結婚してるでしょ。証しは立ててるのに、俺のこと信用できないの?」  と、夏樹が毎回悪びれもせずほざくものだから、楓は絶句し、何事もなかったことにして家事に戻るのが常だった。  楓は本当に夏樹のことが好きだったのだろう。  「好き」の度合いは、弱みだ。引け目のあるほうが、最後には折れることになる。  楓の負け戦は、奴の勘違いを増長させた。  きっと、自分のことを「世界に愛されている」と思っている。傲慢だ。  そのくせ割とお調子者で、実際に幸運で、周りに助けられて生きている。
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