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夏樹は以前、家まで押しかけてきた頭のおかしい女と刃傷沙汰になりかけたことがある。
そのとき奴がどういう行動をとったかというと──自業自得にも関わらず玄関に駆け込み、籠城を決め込んだ。
戦わないのか。何かやることがあるのではないか。無力な児童の手を握っている場合か。
冬馬は内心全力でつっこんだものだが、当の本人は目を丸くして、
「あぁ、びっくりした」
これだ。
最終的に、ビニール傘と大声で敵を威嚇し、追い払ってくれた楓の漢気とは雲泥の差である。
夏樹のマイナス武勇伝は、他にも掃いて捨てるほどあった。
しかし冬馬が幼いうちはそんなこと知るわけもなく。
幼稚園の先生に「冬馬くんのパパ、素敵ね」などと言われて自慢に感じていた頃の自分は、なんと愚かで純真であったことか。
現実を理解してからは、父親のことは凶悪なウイルスだと思っている。
けれどまぁ、育ててもらっている恩があるから、仕方がないから家族をしている。
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