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2 訃報
県営なみき野住宅。
楓と桜が移住していった先は、冬馬の家からそこまで遠くない、隣の市のはずれにあった。
二駅先の駅から土曜ダイヤのバスに乗り二十分。バス停から徒歩十分ほど歩くと、この辺りでは一番背の高い建物が見えてくる。
四階建て、横長の集合住宅。コンクリート造りだが相当古そうだ。おそらく築五十年は超えているだろう。
並木というより野ざらしの林が、建物の裏に広がっている。
補修はしているのだろうか。地震が来たら崩れてしまいそうな廃れ具合。
昔ながらのザラザラした塗装は灰色に見えるが、もしかしたら以前は綺麗なオフホワイトだったのかもしれない。
「桜と楓……どうしているのかなぁ」
――あの日悩んだ末、冬馬が桜らしき少女に会ったことを夏樹に伝えると、夏樹は強く興味を示した。
桜は元気だったか、何の用だったのかと根ほり葉ほり聞かれたが、冬馬だってよくわかっていないのだから答えようがない。
何ひとつスッキリしない問答の末に夏樹が、
「会いに行ってみようか。わざわざ訪ねてきたってことは、何か困っているのかもしれないし」
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