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一家がバラバラになってからの七年間、冬馬は一種卑屈な思いを抱き続けてきた。義母と義妹とは血の繋がりもない。もう赤の他人なのだ。冬馬のことなど、忘れているに決まってる――それが何故だか、腹が立つ。
しかし、遠目にも低所得層向けのものとわかる住まいを見て、気持ちの根幹にあるものが揺らぐのを感じた。
義母たちが、生活に苦労していただろうということは、間違いない。
考えてみたら、楓は子持ちの女性で、正社員として定職に就いているわけでもなかった。中途採用には厳しい年齢に至ったところで、大黒柱のパートナーを失ったのだ。父に引き取られた自分は、金銭面で不便を感じたことはないが、放り出された母娘にとっては、違っていたかもしれない。
気持ちに、苦いものが広がっていった。
夏樹が当時を思い返すように語った。
「養育費、援助するって言ったのに固辞してさ……。それよりも冬馬をまともに育てられないようなら、すぐ連絡よこせって脅されてな」
「……え?」
そんなことは初耳だった。
楓が、自分を気にかけてくれていたって……?
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