10人が本棚に入れています
本棚に追加
桜だった。買い物にでも出ようとしたのだろう。行き先は、すぐそこのコンビニあたりだろうか。
パーカーにジーンズというラフな格好。猫のような目が、冬馬と、その横にいる夏樹を見て揺れていた。
空気を読まないことに長けた夏樹は、ぱぁっと晴れやかな顔を浮かべて桜に歩み寄った。
「桜? 桜だよな」
「な、なんで……」
桜は身を震わせて後ずさり、閉まったエレベーターのドアに背中をぶつけた。そのまま壁沿いに逃げて、管理人窓口のカウンターへと飛びつく。
「あぁ、桜ちゃん。この人たち、お母さんと別れた旦那さんと息子さんだって……違うのかい?」
「いやいや、本当ですって。桜、覚えてるよな。父さんのこと忘れてないよな?」
桜は肯定も否定もせず青ざめて、夏樹のことをただ呆然と見上げていた。
「大きくなったなぁ。元気だったか? 楓にそっくりになって……」
「なんで来たのよ。帰って! 帰ってよ!」
突然狂ったように叫びだし、近寄るなと手を振り上げた。
「えっ……? 桜、あの……」
最初のコメントを投稿しよう!