2 訃報

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 桜だった。買い物にでも出ようとしたのだろう。行き先は、すぐそこのコンビニあたりだろうか。  パーカーにジーンズというラフな格好。猫のような目が、冬馬と、その横にいる夏樹を見て揺れていた。  空気を読まないことに長けた夏樹は、ぱぁっと晴れやかな顔を浮かべて桜に歩み寄った。 「桜? 桜だよな」 「な、なんで……」  桜は身を震わせて後ずさり、閉まったエレベーターのドアに背中をぶつけた。そのまま壁沿いに逃げて、管理人窓口のカウンターへと飛びつく。 「あぁ、桜ちゃん。この人たち、お母さんと別れた旦那さんと息子さんだって……違うのかい?」 「いやいや、本当ですって。桜、覚えてるよな。父さんのこと忘れてないよな?」  桜は肯定も否定もせず青ざめて、夏樹のことをただ呆然と見上げていた。 「大きくなったなぁ。元気だったか? 楓にそっくりになって……」 「なんで来たのよ。帰って! 帰ってよ!」  突然狂ったように叫びだし、近寄るなと手を振り上げた。 「えっ……? 桜、あの……」
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