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3 現実感がないままに
翌日、夏樹とは必要最小限の会話しかせずに、いつもの朝を過ごした。
事実の確認と気持ちの整理は必要と思えた。だが話し合うにしても、誰と何を語るというのか。冷静になる時間が必要だった。
そうこうしているうちに、夏樹はますます仕事に追われていった。
冬馬にしても、事情があろうがなかろうが、学校には通わねばならない。かつての家族が亡くなっていたというのに、毎日は変わらずやってきて、生きる義務を課してくる。
人生は酷だと思うが、教師や友人の声を聴いていると、気が紛れるのも事実だった。
冬馬は、三日後にもう一度だけ、放課後にひとりで、なみき野住宅を訪れた。
管理人は、桜の許可がないのに通せないと首を横に振ったが、ただ気の毒そうに「元気だしなよ」と慰めの言葉をくれた。それほど疲れが顔に出ていたのかもしれない。
諦めずに敷地の手前にあるコンビニで待ち伏せていると、桜のほうから姿を見せて、仏頂面で帰れと言った。どうやら管理人に話を聞いて、ここにいると察して来たらしい。
「帰るけどさ……先に会いに来たのはそっちだったろ。何か用があったんじゃないの?」
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