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「おい、手紙は? せめて読んでやれよ」
「知るか」
「いつもの子かな? よく遠巻きにこっち見てる……お前のファン」
「違う。ただのストーカー」
「これだから贅沢なイケメンはよぉ。いいなー、俺もラブレター貰ってみてえなぁ。バレンタインもチョコ入れてくれたりするんだろうなー、ずりーなぁ」
「靴と一緒にされた食い物なんか食えるか」
カッコいいと言われる父の血を受け継いだせいか家系の呪いなのか、冬馬は高校生になって頻繁に女子から好意を寄せられるようになった。
しかし愚父のところへ押し寄せる女性、大人たちの醜態を目の当たりにしてきた過去ゆえに、冬馬は一方的に押しつけられる好意なんて、気持ちが悪いと思っている。
待ち伏せするやつ。泣くやつ。物で釣ろうとしてくるやつ。
好意を返してもらえる理由なんて一片もないのに、なぜそうも前向きになれるのだろう。「ありがとう、嬉しいよ」なんて言うとでも思っているのか。
(バカなんじゃないか? 結局、自分に酔ってるだけだろ)
放課後になっても「好意」はその場から消えずに、朝見たときのまま下駄箱に寂しく居残っていた。
仕方なくつまみだした手紙は、帰路の途中にあるコンビニのゴミ箱に捨てた。
よこした本人がどこかで見てるかもしれないが、知ったことじゃない。
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