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「はぁ? いつの話だよ……やましい理由なんてないし。呼ぶには事情があって……」
夏樹は昨夜と同じ言い訳を口にした。酒の席でみんな飲み過ぎてしまい、最終の電車がなくなって、部下の女性たちに泊まらせてくれと頼まれたと。
だからなんだ。それは真実かもしれない。だけど、受けてはいけない頼みだ。既婚者なら――未婚だとしても相当の覚悟がなければ、線を引いておかねばならない域だ。
なんでわからないんだと、いくら責めても平行線。もどかしくて泣き叫びたかった。
「最低だよ……この、人間のクズ!」
「なんだと?」
さすがに頭にきたのか、夏樹の眉間に深い皺が寄り、視線が鋭くなった。
見下ろされてわずかに怯んだが、負けてたまるものか。
七年以上も経って――取り返しもつかないところまできてしまったが、今なら想像できる。楓義母さんがこいつの言動に、どれほど傷つけられていたかを。
「もう話しかけんな。義母さんは……母さんは、あんたなんかと結婚しなきゃよかったのに――俺だって、もっとまともな親の元に生まれてきたかった」
「な……」
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