5 凶事は突然に

4/9
前へ
/104ページ
次へ
 珍しく落ち込んでいて機嫌も悪そうだったので、そっとしておくことにした。あまりビジネスの深いところまで立ち入りたくはない。  だが、ちょっと待てよ、となったのは、その日の夜。  ――ピンポーン……。  訪問を知らせるチャイムが鳴って、冬馬が応じようと席を立つと、夏樹が止めた。 「俺が出るよ」  冬馬は中にいるように言われて、夏樹が廊下に消えていった。  半開きになった内扉をそのままに、リビングで耳をすませていると、玄関のほうから女性の声が聞こえてくる。どうやら夏樹の会社の同僚のようだ。盗み聞きをするつもりはないが、気になってしまう。 「部長。やっぱり納得できないんです。なんで私が異動なんですか。私が邪魔になったんですか」  うわぁ……と、冬馬は内心おののいた。  また女絡みか。女って怖い。ここまでいくと怪物にしか見えない。 「……わかった。明日、会社に出るから。そこで話そう」  結局、小一時間かけて夏樹がなだめすかして説得し、なんとか帰らせたのだが……。 「すまん」  部屋に戻ってきた夏樹はとても疲れた表情をしていたので、それ以上は責めずにおいてやった。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加