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珍しく落ち込んでいて機嫌も悪そうだったので、そっとしておくことにした。あまりビジネスの深いところまで立ち入りたくはない。
だが、ちょっと待てよ、となったのは、その日の夜。
――ピンポーン……。
訪問を知らせるチャイムが鳴って、冬馬が応じようと席を立つと、夏樹が止めた。
「俺が出るよ」
冬馬は中にいるように言われて、夏樹が廊下に消えていった。
半開きになった内扉をそのままに、リビングで耳をすませていると、玄関のほうから女性の声が聞こえてくる。どうやら夏樹の会社の同僚のようだ。盗み聞きをするつもりはないが、気になってしまう。
「部長。やっぱり納得できないんです。なんで私が異動なんですか。私が邪魔になったんですか」
うわぁ……と、冬馬は内心おののいた。
また女絡みか。女って怖い。ここまでいくと怪物にしか見えない。
「……わかった。明日、会社に出るから。そこで話そう」
結局、小一時間かけて夏樹がなだめすかして説得し、なんとか帰らせたのだが……。
「すまん」
部屋に戻ってきた夏樹はとても疲れた表情をしていたので、それ以上は責めずにおいてやった。
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