5 凶事は突然に

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 道路側から、第三者による声がかけられた。隣のおばちゃんだ。不穏な空気を察した顔で、口元に手を当て、門の外からこちらの様子をうかがっている。 「おばさん……!」  冬馬は、この事態をなんとか収めたい一心で、声を上げた。 「け、警察を……、警察を呼んでください!」 「警察!? 私は……私は悪くない!」  冬馬は振り返った。血走った視線が、まっすぐにこちらへ向けられていた。敵とみなしたものに標的を定めて。  中段に鈍色のナイフを構え、突進してくる女性の姿が、スローモーションのように映る。  刺されるとか怖いとか、具体的なことは思い浮かばなかった。ただ目の前の凶行を、迫りくる狂気を待つことしかできない。  それが到達する前に、自分と相手との間に影が割り込んだ。  ――ドスッ。  重く、嫌な音が響いた。  大きな背中が、目の前にある。夏樹だ。冬馬を庇って刺されたのだ。 「うっ……く……」  夏樹の体が崩れ落ちた。  おばちゃんの悲鳴が、上がった。  刺した女性は、血濡れの手を眺めて、座りこんでいた。
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