9人が本棚に入れています
本棚に追加
道路側から、第三者による声がかけられた。隣のおばちゃんだ。不穏な空気を察した顔で、口元に手を当て、門の外からこちらの様子をうかがっている。
「おばさん……!」
冬馬は、この事態をなんとか収めたい一心で、声を上げた。
「け、警察を……、警察を呼んでください!」
「警察!? 私は……私は悪くない!」
冬馬は振り返った。血走った視線が、まっすぐにこちらへ向けられていた。敵とみなしたものに標的を定めて。
中段に鈍色のナイフを構え、突進してくる女性の姿が、スローモーションのように映る。
刺されるとか怖いとか、具体的なことは思い浮かばなかった。ただ目の前の凶行を、迫りくる狂気を待つことしかできない。
それが到達する前に、自分と相手との間に影が割り込んだ。
――ドスッ。
重く、嫌な音が響いた。
大きな背中が、目の前にある。夏樹だ。冬馬を庇って刺されたのだ。
「うっ……く……」
夏樹の体が崩れ落ちた。
おばちゃんの悲鳴が、上がった。
刺した女性は、血濡れの手を眺めて、座りこんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!