1 夏樹

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 こいつは……腹パンしてやろうか。それも傷のところを。  ぎろりと睨みつけていると、病室の扉が訪問者によってノックされた。 「はい?」  外に向けて答えると、遠慮がちに扉が開く。  立っていたのは、桜だった。 「桜……どうして」 「さ、刺されたって聞いたから……」  夏樹の顔を見るだけで部屋に入ってこようとしない桜を、中に迎え入れた。  丸椅子を出して座らせると、ただ黙って俯いている。 「地域新聞の隅っこに、載ってて……びっくりして。管理人さんが、救急で運ばれるならここだろうって」  新聞に載ってたなんて知らなかった。『サラリーマン、痴情のもつれで刺される』とでも書かれているのだろうか? 猛烈に恥ずかしい。 「見舞いに来てくれたのか! 父さん、嬉しいよ」 「……でもなんか、元気そう……」  感情を殺したように、一本調子に言う桜だったが、その手は震えていた。  冬馬は黙って見ない振りをした。  夏樹は穏やかに微笑んで、心の底から嬉しそうに言った。 「桜。お見舞いにきてくれて、ありがとう。それから、お母さんのことは……」  桜は、首を振った。
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