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こいつは……腹パンしてやろうか。それも傷のところを。
ぎろりと睨みつけていると、病室の扉が訪問者によってノックされた。
「はい?」
外に向けて答えると、遠慮がちに扉が開く。
立っていたのは、桜だった。
「桜……どうして」
「さ、刺されたって聞いたから……」
夏樹の顔を見るだけで部屋に入ってこようとしない桜を、中に迎え入れた。
丸椅子を出して座らせると、ただ黙って俯いている。
「地域新聞の隅っこに、載ってて……びっくりして。管理人さんが、救急で運ばれるならここだろうって」
新聞に載ってたなんて知らなかった。『サラリーマン、痴情のもつれで刺される』とでも書かれているのだろうか? 猛烈に恥ずかしい。
「見舞いに来てくれたのか! 父さん、嬉しいよ」
「……でもなんか、元気そう……」
感情を殺したように、一本調子に言う桜だったが、その手は震えていた。
冬馬は黙って見ない振りをした。
夏樹は穏やかに微笑んで、心の底から嬉しそうに言った。
「桜。お見舞いにきてくれて、ありがとう。それから、お母さんのことは……」
桜は、首を振った。
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