1 夏樹

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「そのことは、今度……落ち着いてから、話そ……」 「ん……そうか……」  声のトーンを落とした夏樹を、桜は何度もちらりちらりと見て、また目を伏せた。  久しぶりに見る義理の父親だった男の顔が、気になってはいるのだろう。 「桜……リンゴ、食うか?」  冬馬がそう尋ねると、桜は首を横に振った。 「すぐ帰るから。今日はこれを……あんたに、渡そうと思って」  あんた――。もう「お兄ちゃん」なんて呼ばれる年じゃないのはわかっているが、微妙に大ショックだ。  誰にも知られぬよう、リンゴを籠に戻すふりで下を向き、心で泣いた。  桜は、肩にかけていた大きめのバッグを下ろし膝に乗せると、中から綺麗に包装された品を取り出した。 「はい」  と、遠慮がちにこちらに差し出してくる。 「俺に?」 「うん……お母さんから……」 「!」  息が止まるかと思った。義母さんからだって?  プレゼントの包みを受け取ると、ぎこちない手つきで包装を解く。  新品のグローブだった。 「これ……」
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