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「そのことは、今度……落ち着いてから、話そ……」
「ん……そうか……」
声のトーンを落とした夏樹を、桜は何度もちらりちらりと見て、また目を伏せた。
久しぶりに見る義理の父親だった男の顔が、気になってはいるのだろう。
「桜……リンゴ、食うか?」
冬馬がそう尋ねると、桜は首を横に振った。
「すぐ帰るから。今日はこれを……あんたに、渡そうと思って」
あんた――。もう「お兄ちゃん」なんて呼ばれる年じゃないのはわかっているが、微妙に大ショックだ。
誰にも知られぬよう、リンゴを籠に戻すふりで下を向き、心で泣いた。
桜は、肩にかけていた大きめのバッグを下ろし膝に乗せると、中から綺麗に包装された品を取り出した。
「はい」
と、遠慮がちにこちらに差し出してくる。
「俺に?」
「うん……お母さんから……」
「!」
息が止まるかと思った。義母さんからだって?
プレゼントの包みを受け取ると、ぎこちない手つきで包装を解く。
新品のグローブだった。
「これ……」
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