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「お母さんが事故に遭う前から、ずっと用意してあったの。だけど渡せないままで……」
グローブ。野球なんて、もう止めてしまったのに。
野球をやっていたことを、母は知っていたのだろうか。もしかして、試合を見に来たこともあったんじゃないか。
さまざまな思いが、胸の中に湧き上がった。
「義母さん……」
どんな顔をしていたかわからない。いつもはからかってくる夏樹も、何も言わなかった。
「渡せて、よかった」
桜は満足した様子で、気の抜けた顔で笑った。
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