1 夏樹

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「お母さんが事故に遭う前から、ずっと用意してあったの。だけど渡せないままで……」  グローブ。野球なんて、もう止めてしまったのに。  野球をやっていたことを、母は知っていたのだろうか。もしかして、試合を見に来たこともあったんじゃないか。  さまざまな思いが、胸の中に湧き上がった。 「義母さん……」  どんな顔をしていたかわからない。いつもはからかってくる夏樹も、何も言わなかった。 「渡せて、よかった」  桜は満足した様子で、気の抜けた顔で笑った。
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