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家族が別れることになり、楓と桜は自分たちから離れた。それでも楓は桜がいたから、桜は楓がいたから、毎日を生きてこられたのだと思う。苦労はしたかもしれないが、幸せだったんじゃないかと思う。楓はそういう人だ。
それなのに、予告なくライトを落とすかのごとく、楓を失ってしまった桜は――。
「……?」
と、先ほどまで彼女が座っていた丸椅子の横に、バッグが置かれていることに気がついた。
「桜、鞄忘れていった……?」
「え? あぁ本当だ。なにやってるんだ」
「ちょっと行ってくる!」
追いかけて届けようと、慌てて席を立った。
病院内で少女の姿を探しながら、動線を辿る。エレベーターから降りて、病院のエントランスまで来て立ち止まった。
――桜の様子、どこか変だった気がする。
あんな、すべてをやりつくしたような、疲れた顔をして。
入り口にいた案内役のスタッフに、こんな年恰好の女の子が通らなかったかと尋ねたが、見ていないという。
嫌な予感がして、病室のある階へと急いで引き返した。
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