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少女は向かいの家のブロック塀に背を寄りかからせたり、離したりしながら、住宅の二階をしきりに見上げている。そしてその視線の先は……位置的に見ておそらく、冬馬の部屋だ。
自宅を誰かが訪ねてくる予定はないし、そこまで親しい間柄の女友達は作っていない。
唯一心当たりといえば、ついさっき持て余して捨てた手紙。てっきり同級生からだと思っていたが、セーラー服の彼女こそが出し主で、それの返事を聞きにきたとか?
しかし他校の生徒が校内の下駄箱まで侵入するかというと、それも考えづらい。
仮に手紙の出し主だったとして、「読んでくれた?」とか言うくらいなら最初から対面式にすればいいのに。
ファンとは聞こえがいいだけの、一方的なストーカー。
冬馬はこれまでも何度となく、視線を感じたり、あとをつけられることがあった。家の前で待ち伏せされたのは、今回が初めてになるが。
どうする。
こんなことで父親に頼るつもりはない。どうせ夏樹が帰ってくるのは夜の十一時か十二時を過ぎた頃だ。
警察沙汰にするほどのことでもないし、誰かを巻き込むのも面倒くさい。
迷った結果、冬馬はしばらく時間を置いてから帰宅することに決め、そっと踵を返した。危ないものには近寄らないに限る。
駅前に戻って本屋に立ち寄るか、ファーストフード店で小腹を満たすかすればいい。
だがひとつ困ったのは、晩御飯を作る手前、駅前のスーパーに立ち寄って買い物を済ませてしまったことだ。カサカサと音をたてるビニール袋の中で牛肉が傷まないか心配だったが――まぁ今は真夏ではないから、今日中に調理すればなんとかなるだろう。
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