9人が本棚に入れています
本棚に追加
上階に戻ってきて、廊下を通りかかった看護師に女の子を見なかったかと聞くと、自動販売機のある休憩室のほうで見かけたと教えてくれた。
帰ったわけじゃなかったのか。飲み物を買いにいったのかもしれない。
休憩室に行き周囲を見回したが、そこにも彼女の姿はなかった。
廊下の天井に下がっている「非常階段」の看板が、妙に気にかかった。
矢印の方向へ進み、非常時以外は使用禁止と書かれた金属の扉を押し開ける。
煽られるような風が吹き込んで――目の先に、外階段の手すりから身を乗り出そうとしている女の子を見つけ、咄嗟に飛びかかった。ここは五階だ。落ちたらただでは済まない。
背後から抑え込み、強引に引き戻す。
「放して! 放してよ!」
「ふざけんなっ! なにやってんだ!」
もつれるように倒れ込み、床に転がる。地面に両手をついた彼女は、その場に塞ぎ込むと火がついたように泣きだした。
「母さんのところに、私も行きたい……」
「そんなこと、言うな……っ」
かける言葉が他に見つからない。
自殺なんて母さんは望んでないとか? ばかなことをするなとか? どれも上っ面だ。
「死ぬなよ……ほんとうに、やめてくれ……」
最初のコメントを投稿しよう!