2 桜

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「だって、ひとりになっちゃった……ひとりぼっちになっちゃった」  心が抉られていく。  だけどすでに抉られ尽くして、穴が開いているのは桜のほうだ。  ひとりじゃない。いつだって家族に戻れる。父さんだって、反対するわけない。  そう伝えたかった。  だけど、桜が望んでいるのはそんな理屈ではないことも、わかっていた。  いくら望んでも、願っても――「母さん」は戻ってこないのだ。      *  落ち着いてから休憩室に戻って、ふたりで話をした。  自分たちは「家族」に戻れないか――そう尋ねると、桜は頷かず、噛み締めるようにゆっくりと言葉を紡いだ。 「お母さんは恨んでなかった。お兄ちゃんのことも、ずっと気にしてて……お父さんのことも好きだった。でも、お父さんは、お母さんを幸せにしてくれなかった。大嫌い。私は、絶対に許さない……」  それ以上、なにかを強要することはできなかった。  ごめんと言ったら少しは気が晴れるのだろうか。夏樹に土下座させて謝らせたら、傷が癒えるのだろうか。  夏樹のせいだけじゃない。自分の愚かさも呪っていた。  恵まれた境遇にいながら、母と妹を悪者にして、自分のことばかりで、相手を気にかけもしなかった――床に頭を打ちつけて自分を痛めつけたいくらいにもどかしく、無力だ。  むせび泣きを始めた桜を慰める言葉も思いつかないまま、ただ泣き止むまで、そばに寄り添っていた。  その傷を、少しでも分けてほしいと思いながら――。
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