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「だって、ひとりになっちゃった……ひとりぼっちになっちゃった」
心が抉られていく。
だけどすでに抉られ尽くして、穴が開いているのは桜のほうだ。
ひとりじゃない。いつだって家族に戻れる。父さんだって、反対するわけない。
そう伝えたかった。
だけど、桜が望んでいるのはそんな理屈ではないことも、わかっていた。
いくら望んでも、願っても――「母さん」は戻ってこないのだ。
*
落ち着いてから休憩室に戻って、ふたりで話をした。
自分たちは「家族」に戻れないか――そう尋ねると、桜は頷かず、噛み締めるようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「お母さんは恨んでなかった。お兄ちゃんのことも、ずっと気にしてて……お父さんのことも好きだった。でも、お父さんは、お母さんを幸せにしてくれなかった。大嫌い。私は、絶対に許さない……」
それ以上、なにかを強要することはできなかった。
ごめんと言ったら少しは気が晴れるのだろうか。夏樹に土下座させて謝らせたら、傷が癒えるのだろうか。
夏樹のせいだけじゃない。自分の愚かさも呪っていた。
恵まれた境遇にいながら、母と妹を悪者にして、自分のことばかりで、相手を気にかけもしなかった――床に頭を打ちつけて自分を痛めつけたいくらいにもどかしく、無力だ。
むせび泣きを始めた桜を慰める言葉も思いつかないまま、ただ泣き止むまで、そばに寄り添っていた。
その傷を、少しでも分けてほしいと思いながら――。
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