3 冬馬

4/7
前へ
/104ページ
次へ
(と、父さんと休日に会ったっていうのは、本当に相談だけだったのか……)  夏樹と洋子がアレコレの関係だと思っていた冬馬は、ますます自分の価値観を全面的に見直すことになった。本当に視野が狭くて、愚かな子どもに過ぎなかったと反省するやら、悔しいやら。 「藤川くん。内緒だけど……お父さんに教わったお化粧のおかげで、人生が開けたの。よろしく伝えてくれる?」  他の生徒に聞かれぬよう、そう小声で伝えてきた鉄ジョは、見違えるように柔らかくなった笑顔で、冬馬にウインクを飛ばした。      *  なみき野住宅に桜を尋ねていくと、楓の遺影の前に通された。  2DKの間取りの片方の和室に、仏壇も何もなく、棚の上に置かれた骨壺と額。  けれど埃ひとつなく綺麗に整えられて、そこだけ静謐な空気が漂っている。  楓の写真を見ると、思っていたよりもショックが大きくて。  こんな再会を望んでいたわけじゃないのに――。  遺影の中の母は、あの頃と同じ笑顔で、穏やかに笑っていた。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加