約束

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約束

私がそこに着くとお目当ての人物はもうそこに来ていた。 「椿!」 私が呼ぶと彼は嬉しそうに微笑む。 「来てくれて嬉しい・・・リストが嫌になって来なくなるんじゃないかってちょっと怖かったんだ」 (椿はそんな心配をしていたのか・・・) わたしは椿の繊細さと危うさを感じて戸惑った。 話題を変えようと私は椿のリストを取り出すと、チェックマークの入ったそれを見せて自慢した。 「見て椿!もうこんなにチェックマークがついたんだよ。すごくない?」 私が得意げに言うと椿も嬉しそうに微笑んだ。 「すごいね・・・これ、全部?僕がやりたかったこと代わりにやってくれたんだね」 椿は感無量といった感じで目尻には涙が滲んでいた。 「だって契約だから。一度した約束は反故にしない。これはあたりまえのことだよ!」 私は胸を張って椿にそういった。 椿は葉桜を見上げて木漏れ日に目を細めると私を見て言った。 「桜はやっぱり桜だね。春の優しい桜、初夏の木漏れ日が眩しい桜、冬の葉も花もないのに必死に寒さを耐えている桜、桜にはそのどれもが当てはまる」 褒めてくれているのだろう。 嬉しい気持ちが湧いてきて私は少し照れながら答える。 「そう言ってもらえて嬉しい。私も椿の名前好きだよ。寒い冬に凛と咲く赤い椿、すごく綺麗で椿にピッタリの名前だよね」 そう言うと椿は少し悲しげに微笑んだ。
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