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「最近ね、体調が安定していたの。もしかしたらこのまま良くなって退院できるんじゃないかって期待していたのだけど・・・昨日の夜急変して。今は集中
治療室に入ってる」
その言葉に私が愕然とする。
ちょっと体調がすぐれなくて出てこられないと思っていたのに、まさか集中治療室に入るほど悪化していたなんて。
「あの・・・私お見舞いできますか?」
私が問いかけるが、お母さんはフルフルと首を振る。
「家族以外は面会できないの・・・残念だけど」
私はそれを聞いて自分のつま先を見つめた。
それはどんどんぼやけてやがて瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「私・・・椿のこと何もわかっていなかった。そんなに体調が悪いことも、ちょっと考えればわかることなのに・・・」
私が泣きじゃくると椿のお母さんは暖かい手で私の頭を撫でてくれた。
「貴方、あの子にリコーダーを貸してくれたでしょ?椿はよほど嬉しかった
みたいで、いつも枕元にリコーダーを置いて寝ているの。検査の合間を縫って屋上に行って吹いたり、本当にたのしそうだった」
私はそれを聞いて、椿にリコーダーを貸したのは間違いじゃなかったと思い、ほっとした。
まだ涙が溢れる。
「椿のお母さん、私、椿に何をしてあげればいいですか?約束したんです。寿命の交換をして、椿は長生きして、私は太く短く生きるって」
そう言って泣きじゃくる。
椿のお母さんは何も言わずそっと私を抱きしめた。
「いいのよ・・・ありのままであの子に接してあげて・・・椿はそれが一番嬉しいと思うの」
お母さんはひたすら優しかった。
私はちっぽけな子供で、椿のためには何もできない。
それが辛かった。
だけどお母さんはそのままでいいと言ってくれる。
それが私の救いとなった。
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