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しばらく泣いていたが、ようやく涙が収まると私は思いついてランドセルからノートを取り出すと1枚破いて文字を書きこんだ。
”生きる”
”桜の花を一緒に見る”
「椿のお母さん、これを椿に渡してもらえますか?」
私は新しいやって欲しいことリストにそう書きこんで手渡した。
お母さんは手を口に当ててグッと涙を堪えているようだったが、震える声で言った。
「椿・・・きっと新しいリストを見て喜ぶわ。きっと渡すから・・・」
そこで言ってお母さんはポロポロと泣き出した。
「ありがとう・・・椿に出会ってくれてありがとう」
椿のお母さんは私に何度もお礼を言った。
「お礼を言うのは私です。椿は私に沢山のものを教えてくれた。友達と遊ぶことが楽しいとか、勉強をすることは退屈なことじゃないとか。生きるって素敵なことなんだとか。いっぱい・・・いっぱい」
私はまた涙が溢れてくるのを止められなかった。
そんな私を見て、椿のお母さんは私を優しく抱きしめてくれた。
その時だ。
病院の入り口から看護師さんがかけてくるのが見えた。
その表情は険しくて、何かあったことがわかった。
(椿だ・・・)
直感的にそう感じた。
「榊さん、急いで病室へ、椿くんが・・・」
そこまで言うと隣に私がいることに気が付いて看護師さんは押し黙った。
「私も行っていいですか?」
そう言うと、椿のお母さんは「来て。」と言うと看護師さんと一緒に走り出した。私もその後を追う。2人は自動ドアで区切られた集中治療室へと入って行ったので、私はその前に置いてあるベンチに腰掛けた。
その時ふと幼い頃のことを思い出した。
お母さんが流産した日、私は病院のソファに座って足をブラブラさせていた。ただつま先だけを見て、何か恐ろしいことが起こっていることだけはわかるけど、実際何があったのかわからない透明な恐怖感を味わっていた。
(あの時と一緒だ・・・)
あの時は結局弟は助からなかった。
では今回は?
私は不安で胸が押しつぶされそうだった。
透明なガラス窓からお母さんが椿の手を握って何か必死に喋りかけている姿だけが見えていた。
(ああ・・・もしかしたら椿も)
あちら側に行ってしまうのか。私との約束を置き去りにして。
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