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「暇なら慣れてるよ。今も暇だからこうしてここにきているんだ」
椿はそう言うと手を差し出した。
私は咄嗟にその手を両手で優しく包み込む。
骨と皮とわずかな肉の感触。
サラサラとした触感の手だった。
「今日から桜の寿命は僕が貰うよ、僕の寿命も桜にあげる。交換!じゃあこの誓いを何処かに残そうか」
椿は辺りを見回して何かないか探し始めたので私も周りをキョロキョロした。
少し先に大きな石があり、その少し先は崖になっていてキラキラと美しい海が広がっている。
「椿、あの岩に誓いを掘るのはどう?」
私がそう言うと椿は嬉しそうに
「いいね!そうしよう」
そう言って2人で岩の前まで来た。
硬い石でなんどか岩を打ちつけたが岩には傷一つつけることができない。
仕方なく、私は持っていたマジックペンで岩に書き込む。
『椿と桜の寿命を交換する事をここに誓う』
そう書き込むと本当に寿命の取り引きが行われた気がするから不思議だ。
「さて、僕はもう病室に戻るよ。あまりあけると皆んなが心配するから」
「私、椿の病室に行ってもいい?」
そう尋ねると椿は首を振る。
「会うのはこの木の下にしよう。ちょうど同じ名前の桜の木だし誓いの岩もあるから。僕はいつもこの時間にここにいる。次までに寿命の使い方をかんがえてくるから、桜も考えてきて」
椿はそう告げるとゆっくりした足取りで病院の中に消えて行った。
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