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そうして過ごす日々に少し慣れてきた頃、わたしは職員さんから呼び出しを受けた。
「桜ちゃん宛に小包が届いているんだけど、施設ではチェックしてからじゃないと渡せない規則になっているから、ここで開けてみてもいいかしら?」
年配の職員さんが気遣うように説明してくれる。
「何処からですか?」
わたしは一瞬、両親の顔がよぎったが次の言葉を聞いて複雑な心境になった。
「青葉総合病院からよ」
咄嗟に嫌な考えがうかぶ。
椿に何かあったのだと。
「あら、ボイスレコーダーじゃない、これ、ここでつけてもいいかしら?」
わたしは頷く。
すると職員さんは再生ボタンを押した。
『桜・・・今どうしてる?僕はね、まだチューブに繋がれたままだから、身体がうごかせないんだ。でも喜んで、君の書いたリストの一日中昼寝するは達成できたから。つかれてきちゃったからねむるね。おやすみ桜』
職員室は静まり返る。
「これらもらっていってもいいですか?」
職員さんは気遣うように微笑んで、ええ、と答えるとそっとレコーダーを渡してくれた。
私は自室に戻ると先程の続きを聞き始めた。
『おはよう桜、僕はようやく一般病棟に戻れたんだけど、立ち歩きは禁止だって!桜を見に行けないのは残念だけど、まだ命が繋がってるんだって思うとすごく嬉しいんだ。ボイスレコーダーのメモリがいっぱいになったらこれを送るね。』
椿の声に少しハリが戻っていた事に私は安堵した。
『おはよう桜、今朝はすごく気分が良くて、お母さんに頼んで純文学の本を借りてきてもらったんだ。"夏目漱石"の"吾輩は猫である"よみはじめだけどすごく面白いね!どんどん続きが読みたくなる。ケボ,ゴホ,今日はここまで。またね』
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