交換

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交換

私は放課後になるとランドセルを背負ったまま昨日と同じ場所に向かった。 私が着く頃には椿が桜の木の根元に座り込んで、私を見つけると手を振ってくれる。 「約束通りきたよ。椿またせてごめんね」 私が申し訳なさそうにすると、椿は笑った。 「学校があるから仕方ないよ。僕みたいな何もしてない子とは違うんだから」 椿はなんでもない風にそう言ったが、私は椿が何もしてないと言うことに引っかかる。 だが、そこに何を言えばいいのかどれだけ考えても答えがでなかったから押し黙って借りてきた本を手渡した。 「この栞の挟んでいるページ読んでみて」 椿は本を受け取ると栞の挟んであるページをじっくりと読み、終わった頃には目を輝かせていた。 「これだね!寿命の交換!僕がやりたい事を代わりに桜がして、桜がやりたい事を僕がする。寿命の交換になるね!早速やろう」 椿が興奮してそう言うので、私はランドセルからノートを取り出して、2枚ページを破った。 綺麗に切れずに端がボロボロになったそれに、鉛筆でやって欲しい事を書き込む。 机がわりに渡した国語の教科書を椿はパラパラと捲ると、少し寂しそうな顔をしたけど、すぐに紙を置くと必死に文字を書き始めた。 私もそれを見届けると、算数の教科書を机がわりにして椿にやって欲しい事を書いていく。 「できた!」 椿がそう言って嬉しそうに差し出した紙にはびっしりと文字が書き連ねてあった。 「すごい量だね。これ全部やるの?」 「寿命が尽きるまでまだまだ時間があるから大丈夫だよ。それより桜のは?」 私は紙に半分くらい書いたものを椿に手渡す。 「えっ、本当にこんな事でいいの?」 椿は吹き出すとケラケラ笑った。 私が書いたことといえば、 ・一日中昼寝をして過ごす ・好物のメロンを丸ごと1人で食べる ・本をたくさん読む(とくに純文学) 他にも書いたがどれも似通ったものばかりだった。 「素直な気持ちで書いたらこうなっちゃったんだよ!椿のは?」 そう言って椿の書いたものを読もうとしたら、椿の手によって遮られた。 「家に帰ってよんで!たくさん書いたし、今は桜とおしゃべりしたい」 椿がそう言うならと、私はランドセルに教科書とリストをしまった。 「ね、ランドセル、ちょっと背負ってみてもいい?」 椿は興味深げにお願いしてきた。 断る理由がないのでランドセルを手渡すと、ゴトリとランドセルが地面に落ちた。 「どうしたの?手が滑った?」 私が不思議に思っていると、椿は一瞬悲しそうな顔をして、落ちたランドセルを立てると、今度は座ってランドセルに腕を通した。 「わあ、ランドセルなんて久しぶり!なんだか背中がくすぐったいや」 そう言って無邪気に笑う。 「立って歩いてもいいんだよ?」 私がそう言うと、椿は少し悲しげな顔をした。 「これで十分だよ。ありがとう」 そう言ってランドセルから腕を抜いて座り込んだ。
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