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受けては突き、払っては蹴り、手足が風切る猛打の応酬。片やポニーテール、片やウルフショートの少女ふたりにほとんど体格差は無く、練度もまた互角。
それは観客だけでなく、実際に手合わせしているお互いが一番感じている。
しかし残酷な現実はいつも優劣を付けずにはいられないのだ。
前蹴りを下段払いで捌かれたウルフショートの少女が一瞬、ほんの一瞬バランスを戻し遅れた。相対するポニーテールの少女はその針の穴のような隙に精密に正拳突きを叩き込む。
「チェストォ!」
少女の拳とは思えぬ重い打撃音が響く。
「一本! それまで!」
金岡乙女十四歳。
女子中学生空手全国大会二連覇を成し遂げた少女は、対戦相手が立ち上がりお互いに礼を返し背中を向けるまで本心からの残心を持って相対した。
これは試合だからそんなことあるはずがない。そうとわかっていても、立ち上がる余力のある相手に油断を見せる危険を軽視する気にはなれなかった。
これは乙女自身の信念に寄るものではあったが、その相手が茨野純花であれば尚更だ。
一昨年一年生にして全国大会優勝を成し遂げた純花は昨年二連覇を賭けた決勝で乙女に敗れ、今回は中学最後のリベンジマッチだった。
けれども運命は彼女に微笑まなかった。
打たれてよろめいた刹那の絶望、そして試合後に向き合って見せた憎悪にも似た表情は、もしここが衆人環視の場でなければどうなっていたかわからないと乙女に思わせる迫力を宿していた。
少しの時間を置いて表彰式になる頃にはすっかり機嫌を直したように和やかな笑みを浮かべる純花だったが、それが上辺だけであると乙女こそが最も理解している。
そして、そんなまだ幼さの残る少女たちの剣呑な空気を察していたのは、実は当事者ふたりだけではなかったのである。
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