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「取られたもんは仕方ねえ、ブチのめして奪えばいいのさ! やっちまえソーンローザ!」
「言われなくとも!」
弾丸の如く踏み込むソーンローザ。拳が狙うは正中線のど真ん中水月。踏み込みは生身の純花を遥かに上回る。
びいが叫ぶ。
「危ない、カメリア!」
しかし金岡乙女、フラワーカメリアこそびいの見込んだ魔法少女であり、つい先ほど殴り合い大会の、それもソーンローザである茨野純花を下しての優勝者である。
変身を取得してからのキャリア差などほんの数分、そんな誤差に等しいハンデキャップで負けるはずもない。ましてや本番に強い彼女だ。
が。
カメリアはローザの鋭い正拳を十字受けでしっかと防御したものの、それだけだった。そして完全に防御したにも関わらず、カメリアは体力を毟り取られるような疲労感に苛まれる。
「ぐううっ」
カメリアの呻きに、ローザが恍惚の笑みを浮かべた。
「返してこないの? 私は構わないけど」
もとより手心を加える理由など無い。下段蹴り、唐竹手刀、防御の隙間を狙っての鉤突きなどおおよそ考え得るあらゆる打撃が襲いかかるが、カメリアは防御一辺倒で打ち返す様子が無い。
「カメリア、なにをしてるびい! 打ち返さないとジリ貧だびい!」
乱打の嵐に踊るように飛び散る琥珀色。それは可視化されたハニーフォースだ。一撃一撃と受けるたびに防御を固めるカメリアの身体から飛び散り削られ損なわれる。
魔法少女の戦いとは、ハニーフォースを打ち込んで相手のハニーフォースを削る消耗戦。その感覚をカメリアは身を持って感じていた。
けれども。
それでも。
だからこそ。
打ち返せない。
「魔法少女なん、だからさ……その、魔法の、ステッキとか……無いの?」
ローザもカメリアも衣装に合わせたグローブこそ身に着けていてもステッキのような小道具は持ち合わせていない。
「カメリアにはその拳があるびい?」
「無いよ」
「えええ?」
カメリアの間髪無い即答に逆にびいのほうが狼狽えた声を上げる。
「なに言ってるびい! びいがなんのために殴り合い大会の優勝者を選んだと」
「そんなことわかってる!」
びいの言葉を割り込んだカメリアの言葉は悲鳴のように響いた。
「それでも! 魔法少女は殴り返したりなんかしないの!」
そうしている間にもローザの打撃が収まるわけではなく、十分に防御しているとはいえカメリアのハニーフォースはじりじりと削り取られていく。
「なに言ってるびい! 人間界の魔法少女だって普通に殴り合ってるびい!?」
「それってギャルキュアだよね!?」
ご当地防衛少女ギャルキュア。それは「戦う」「お洒落な」「ご当地」少女をコンセプトに毎クール登場する街とメンバーが総入れ替えになる二十年以上続く覇権女児アニメである。
彼女らは地元を守るために戦うのだが、その際に振るわれるのは専らその拳であり蹴り足だ。
暴力的過ぎるとの批判意見もときにはあるものの、コンテンツはもはや不動の存在でありその名が戦う少女の象徴であることになんら疑義はない。
はずだ。
はずなのに。
「だって、目指してるのはギャルキュアじゃなくてキューティーシャインなんだ」
まさか空手少女の目指す魔法少女がまったく別のものであろうとは。
「知らないびい」
「タイトルだけ、聞いたことある」
「知らねえな!」
びい、ローザ、ワスプ、三者三様の知らない宣言を受けてカメリアは涙目になった。
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