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「知らないのキューティーシャイン!」
魔法少女キューティーシャイン、それは全魔法少女の開祖。二十年を越えて女児アニメの歴史を紡いで来た戦う少女ギャルキュア、その初代よりも更に倍は昔に放映された原点中の原点と言える作品だ。
「うそでしょおおおおっ!?」
カメリアはローザのラッシュに削られながらダメージとはなんの関係もない悲鳴を上げる。しかしその気持ちは彼女に全てを託さざるを得ないびいもおなじことだ。
「キューティーシャインは知らないびい! でも! でもカメリアが戦わないとフラワー王国が滅んでしまうんだびい!」
「でもっていうか! オ……ワタシって魔法少女なん、だよね!?」
「カメリアがオレっ娘じゃなくなったびい!?」
「うっさい死ね!」
「ぎゃびい!?」
キューティーシャインの一人称は私だったが、そもそも作品を知らなかったびいの知るところではない。しかし乙女にとって、魔法少女フラワーカメリアが一人称をオレとするのは耐えられなかった。自分をオレなどと言う魔法少女は居ないのだ。少なくとも乙女のなかには。
「とにかく、魔法少女なんだから殴ったり蹴ったりしないの! そんなの魔法少女じゃないじゃん!」
魔法の力で変身しステッキから放たれる魔法の輝きで全方位の悪意ある者らを打ち砕く大雑把とも言える戦闘スタイルはアニメで複雑なハイスピードアクションを表現出来なかった時代ゆえの産物だとも言われているが、とにかくキューティーシャイン本編において確かに主人公が敵を殴打するシーンは存在しない。
「でもギャルキュアは……」
「ギャルキュアは変身ヒロインだけど魔法少女じゃないから」
言いかけたびいをカメリアが恐ろしいほどの早口で否定した。
「び……」
「違うから」
びいはSNSでブチ上げれば軽く炎上しそうなテーマの断言っぷりに怖れ震え上がったが、それだけにカメリアの“魔法少女として相手を殴りたくない”という強い意志もしっかりと伝わっていた。
とはいえ、魔法少女フラワーカメリアに特に魔法で相手を倒すような手段が用意されているわけではない現状に変わりはない。
「でもこのままじゃカメリアがやられちゃうびい! 諦めないで戦って欲しいびい!」
「諦めない」
びいの懇願に対してカメリアは防御に徹しながらも強い語気で返した。
「魔法少女は、キューティーシャインはどんなときでも諦めたりしなかった。だから……ワ、タシも諦めない!」
「カメリア……」
ちょっと噛んだ彼女に今度は突っ込まない。その程度の情はびいにも存在した。
だが、だからと言ってどうすることもできない。
魔法少女同士の戦いは一度大幅なリードを許してしまえば逆転するのは至難。小さなリードを積み重ねていくのが定石だ。お互いが容易くクリーンヒットを許さない格闘経験者同士であれば尚更のこと。
味方であるびいですら既に逆転は厳しいと感じている。敵であるローザとワスプは早くも勝利を確信していた。
しかしその奇妙な、悪くいえば時代錯誤な信念ゆえに……カメリアだけは未だに戦いを諦めていなかった。
キューティーシャインは諦めない。
彼女はどんなときでも、誰から見ても絶望的な状況でさえ決して諦めなかった。ただ往生際が悪いだけのみっともない悪あがきを続けた結果、運と言うもおこがましいような偶然が味方しただけの勝利を得たご都合主義エピソードだってあった。
けれども、これだけは間違いなく言える。
キューティーシャインが勝利を諦めるエピソードは、四年間十六クール二百一話の放送において一話たりとも存在しない。
今この瞬間にもカメリアはローザの打撃を受けてハニーフォースが削り取られていくのを感じている。空手の試合のように的確に受けてもそこから流れ込むローザのハニーフォースが、受けた手足に纏うハニーフォースを絡め取り引きずり出し撒き散らす。そしてこれは空手の試合ではない。いかに受けようともカメリアは魔法少女として決して打撃を許されない。己が許さない。
それでもカメリアは諦めない。
なにか、なにか未知の打開策があるはず。
たとえ無くても創り出せ。
それが魔法少女だという狂信的な信念がひとつの答えに行きついたのは、まさに奇跡、いや執念とでも呼べばよいのか。
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