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最初に違和感を察したのは打撃を繰り出している張本人、ソーンローザだった。
魔法少女は攻撃のたびにハニーフォースを放ち、相手もまたそれを纏った手足で防御する。
ハニーフォースには他者のそれと混じり合ったとき元の量を越えて多くを巻き込む性質があるため単純な相殺にはならない。
攻撃してハニーフォースを浴びせるほど有利に、防御して浴びせられるほど不利に、さらには攻撃を手足で捌き切れず身体に直撃を受ければ損なわれるハニーフォースは莫大なものとなる。
ゆえに魔法少女同士の戦いとは攻撃の手数と回避、防御の的確さが優劣を決する。
彼女はワスプからそのように聞かされていたし、実際に殴ると同時に拳から放たれ、それを受けて飛散するお互いのハニーフォースの流れを感じてその道理を確信していた。
けれども今はどうだ。
防御の上からとはいえ攻撃は打ち放題。正拳突きの連打に上段中段下段を問わない多彩な蹴撃。試合であれば止められかねないほど一方的な打撃を繰り出している。まさにサンドバッグだ。
にもかかわらず、カメリアから飛散するハニーフォースがあまりにも少ない。それは打撃のたびにローザから放たれる量すら下回っている。ほぼ絶無と言っていい。
まるで攻撃の全てが飲み込まれるような不気味な手応え。
「カメリア! いったいなにをしている!!」
「よく見て……ローザなら、きっとわかるよ」
問いに答えるカメリアの声はか細く余裕は感じられない。けれども、そこには強い意志と、なにかを成し遂げた者特有の自信が含まれているのをローザは感じ取っていた。
よく見て? なにを? この戦いの本質がハニーフォースのやり取りであるならば、見るべきは決まっている。
ローザは一瞬手を止めて呼吸を整え精神を集中した。
直後に放たれるは乾坤一擲の正拳突き。
「セイヤァッ!!」
心身を研ぎ澄ませ高度な集中状態で最速の一撃を繰り出す。
そして彼女は見た。
己の打撃に乗って放たれたハニーフォースは受けたカメリアの腕に纏われたそれを巻き込んで、本来ならばそのまま宙空へと飛散する。
しかしそうはならなかった。それらは絡み合いながらもカメリアの身体を離れずにその腕から全身へと駆け巡り始めたのだ。
「そんな、馬鹿な……」
ローザは一撃で理解した。自分が放ちカメリアの防御を絡めとったハニーフォースがそれでも飛散しなかったのは、全てカメリアが己の体内へ引き込んでしまったからだと。
これはローザもまだ理解していない法則だが、ハニーフォースはシードに選ばれた者から湧き出し続け、個人の許容量を超えると身体に纏うように溢れ緩やかに周囲へと散っていく。
しかしカメリアは違う。
彼女は己の余剰もローザの撃ち込んだハニーフォースの流れに便乗させ、その全てをどこにも散らせることなく自らの体表に流し保持し続けている。
そして肉体という器を溢れてなお制御されたハニーフォースは、ついにはカメリアの全身を覆い尽くし周囲の空間をも支配して渦巻き始めているのだ。
大抵の格闘技には受け切れない力を逃がしたり逆に利用してカウンターを繰り出したりと力の流れを制御する技術が存在するが、今カメリアが行っているのはまさにそのハニーフォース版と言えよう。
ハニーフォースの流れを操りその身に纏う、高度な格闘経験者でありながら打撃を行わないという拘り、その執念が生んだ離れ業。
気が付けば、もうローザには近付くことすら困難な状況になっていた。
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