黒百合の花

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黒百合の花

 少し前まで、私――御子柴(みこしば)まゆかは、裕福な家に生まれただけのごく普通の女の子だった。   総祖父の代から続く会社は、地元では知らない人が知らない人がいないほどに成長し、社長令嬢と同級生にからかわれることもあった。  それでも、私は普通だったはずだ。  実家が裕福だからと学校でわがままを言ったこともないし、財力で人を捻じ伏せたこともない。  友達だって家柄で差別したことなんてないし、そもそも数えるほどしか友達がいない。  その一人がチカだ。  チカはあだ名で、永野(ながの)靖睦(やすちか)という名前のとおり男の子だ。  初めて会ったときに女の子と勘違いをして仲良くなり、そのまま友人関係が続いている。  初対面では人見知りな美少女に見えたチカも、今ではすっかりイケメン男子だ。  うん、あの頃のチカが恋しい。 「また変な妄想してるの?」  全部顔に出ていたのか、チカが声をかけてくる。  またって言われるほど妄想してないんですが? ――と突っ込みたくなるのをこらえながら、私はチカの脇腹をつつく。 「そんなんじゃないですー」 「いってぇ!」 「そんなに強く押してないし」  いつもの慣れたやりとりになり、どちらともなく笑いあう。  ここまでは普段の日常と変わりなかった。 「永野くん?」  講義室を出た所でチカに声をかけてきたのは、絵に書いたような美女だった。  明るい髪にバッチリとした瞳、メイクは濃すぎず上品――ファッション雑誌の表紙を飾れそうな美人の目には、チカの隣りにいる私なんて映っていない。 「何か用?」 「用がなきゃ話しかけちゃだめ?」  ぶっきらぼうに答えたチカに、美人さんはキラキラとした笑顔を向けている。  並ぶと絵になる二人にの眩しさに、立ち尽くす。
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