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後味の悪さとともに私のなかへ残ったのは、恋心だった。
あなたに恋をしているのだと、おろかな私はようやくそのときに気付いてしまったのである。
告白もできない、自分の不甲斐なさにも気が付きながら。
どうして高校の二年間で気がつかなかったのだろうと悔やむ。
高校の二年間と大学の四年間。
計六年もの年月、「傍にいる」だけという傲慢で押しつけがましい無言の想いを、あなたにぶつけてしまったのだ。
いや、もしかすると鈍感なあなたは、私の傲慢さに気がついていなかったのかもしれない。
その証拠に、大学を卒業しても「こまめに呑みに行こうな」などと私の好きな顔で無邪気に笑うのだから。
私の肩を引き寄せて。
好き。
好き。
すき。
あなたが好き。
だからもう逢わないようにしよう。
好きなままで、あなたの傍にいるのは辛い。
それから三十五年。
あなたのいない私の人生は、タコ焼きのタコが入っていないような、炭酸水の炭酸が抜けてしまったような人生だった。
あのままずっとあなたの傍に居続ける人生と、あなたが傍にいない人生。
どちらがよかったなんて、あなたを忘れることのできなかった私には比べようのない人生だった。
人生とはAというルートを選んだ時点で、もう一方のBというルートは自然に選べなくなるものだ。
長い目で見てもしかしたら、AルートはBルートに繋がっている……なんてこともあるかもしれない。
万が一私自身が気がついていないだけで、神様が別のルートへ誘導している可能性も無きにしも非ずなどと、忘れられないあなたのことを想う私の脳が、都合よく考えてしまっているだけかもしれないけれど。
高校二年の邂逅から本質が変わっていないのだろう。
笑える。
三つ子の魂百までということわざを思い出す。
あなたの隣の席になったあの日から、私はずっとあなたへの想いが変わっていないのかもしれない。
激重。
天を見上げて私は小さく嗤った。
だとしたら私の人生、最期くらい自分の気持ちへ素直になってもいいだろうか。
人知れず私は断りを乞うた。
リミットは一年。
人伝えで聞いた。
あなたは十年前に離婚し、今は独りなのだと。
もう一度あなたを追いかける。
もう一度、一年だけ。
だてに三十五年も年を喰ったわけじゃない。
泥水を飲むような思いをしてきたわけじゃない。
今度は過去の想いに捉われ続けないで、先へ進めますように。
好きだとあなたに伝えにいきますから。
そうしたら、またいつかみたいにその大きな手で優しく私の頭を、撫でてくれませんか。
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