外階段

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外階段

 僕は仕事終わり、繁華街を奥に入った裏路地のビルの外階段で、毎回僕の仕事の報告をする。  人の命を奪ったのにこの作業は淡白な物で、メールを一つ打ち、すぐに帰ってくる「了解、報酬は指定の口座に」という返信で終わる。  最近は梅雨の時期なのもあって、雨がよく降っている。このビルは廃ビルで、階段の所にも屋根は無く、決して雨の中快適とは言えない所だけど、僕は雨が降る時のここはいつもより好きだった。  コンクリートに染みる雨の匂いと無造作に捨てられたゴミの匂い。いつもこの裏路地には人が来ないけど、雨となると人が寄り付く気配すらしなくなる。  僕はメールを打ち終えるといつも、そのまま何を考える訳でも無く階段にただ座っている。この時間は僕が殺し屋としての自分から、日常生活の自分に戻る為の大事な時間だ。  雨の日は傘をさして座っているけど、階段から流れてくる水や傘から垂れてくる雨で結構濡れる。でも、それすら何処か心地良かった。    僕はこの職業になりたくてなった訳ではなかった。昔から僕の家系は「殺し屋家系」で、政界の有力者や資産家、その他一般人や、海外の依頼人など、とにかく誰かにとって都合が悪い人間を消す事を生業として来た。  僕もそんな家系で生まれた身なので、当然幼少期からありとあらゆる殺しの技を叩き込まれた。おかげで、中学や高校の頃に習った柔道や護身術などの類は何の役にも立たなかった。  当然身分が明らかになっては行けないので、僕は授業中はいつもペアの子に投げられていたけど、どんなに柔道が強いクラスメイトでも本気を出せば3秒もかからず無力化出来る力を持っていた。  高校を卒業し、ようやく殺し屋として独り立ちした時に僕は言われた。 「お前は幼く見えるから殺し屋に向いている」と。  僕は今22歳だけれど、大体成人してる様には見られないし、身体の成長は中学の時から止まっている。  じゃあ心は成長したのかと言われるとそれも疑問だ。何せ、人を殺す仕事なんて何回繰り返しても慣れるわけがない。  昔から親には罪悪感を感じない様に教育をされていたけれど、僕はそれに染まりきれなかった。人を一人殺す度に、自分が人間なのか分からなくなる。街に出る度に、沢山いる人間がただの肉塊に見えて来て、嫌になる。  だから、僕は人が少なくなる雨の日が好きだ。  かつん、かつん  座ってぼーっとしていると、唐突に後ろから音が聞こえて来た。いつもここには人が来ることは無いので、僕は珍しい来客に驚く。後ろを振り返ると、時期に不相応な、黒色のコートを着た女性が階段から降りて来ていた。
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